投資環境

投資環境(10)国際収支 各項目の金額の移り変わり

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日本の国際収支は多様化しています

国際収支統計を複数年見比べると、日本経済の強さの質が大きく変わって来ている事がわかります。

海外との取引きで外貨を獲得する方法は、主に3つあります。1つ目は、国内でモノを作り海外で売る方法。国際収支統計では、輸出などの貿易収支がそれに当たります。

2つ目は、海外から人や企業を呼び込んで国内で売る方法。旅行者を呼び込む旅行収支や、特許権や著作権などの受け取りで稼ぐ知的財産権等使用料などのサービス収支がそれに当たります。

3つ目は、海外に会社や工場を建て、海外でモノを作り販売し、その利益を日本に送金する方法。第一次所得収支がそれに当たります。

第一次所得収支の直接投資や証券投資というのは、正確には直接投資収益、証券投資収益と言います。金融収支にも直接投資、証券投資と言う項目がありますが、金融収支の直接投資(証券投資)は投資した額で、第一次所得収支の直接投資収益(証券投資収益)は、金融収支で投資したモノからの収益金になります。

輸出する力、貿易収支

貿易収支は1990年より以前から2007年まで概ね10兆円~15兆円の黒字で推移していました。2008年リーマンショック後、黒字が急激に縮小し、2011年~2015年までは赤字になりました。2014年にはピーク10兆円を超える赤字になっております。2016年からは黒字に復帰していますが、額は年々減ってきています。Made in Japanが高品質を指す事に変わりはありませんが、人件費や輸入する原油価格などのコストの高騰、流通が進化した事などが原因です。モノを作る力が弱まったわけではなく、直接海外で生産するようになりました。

外で稼ぐ力、第一次所得収支

第一次所得収支は1990年代は表中1996年から6兆円程度で推移していましたが、2000年頃から徐々に増加し始め2004年には10兆円を、2015年にはなんと20兆円を越えてきています。2005年頃から貿易黒字を抜き、日本の収益の柱になってきました。海外に会社や工場を建てるという事は、アウェイの地で互角以上に戦えているという事です。日本人は、殆どの人が英語を話せません。それだけ考えても、地力の強さは相当なものだと思います。

貿易収支で稼いでいる場合は、国内で生産しているため、生産現場で働く人たちや下請けの会社まで直接的に利益が分配されますが、第一次所得収支で稼いでいる場合は、国内で直接的に利益を分配されるのは、本社のみという事になります。利益が貿易収支から第一次所得収支に移る流れは、労働者と資本家の所得格差が拡がる流れでもあります。労働者として所得を得ている者がその差を埋めるためには、株式投資など資本家の一面が必要になると思います。

対外純資産、外貨準備(億ドル)

金融収支の直接投資や証券投資、外貨準備の積み上がったものが対外純資産です。対外純資産は外貨準備を含みます。対外純資産も外貨準備も、凄い勢いで増えていっているのがわかります。第一次所得収支の元金になる部分です。

呼び込む力、サービス収支

サービス収支は1990年代、表中1996年~2002年までは5~6兆円台の赤字でしたが徐々に赤字が減ってきて、2019年には初の黒字になってきました。旅行収支に限っていえば、2015年から黒字になり2019年は2.70兆円の黒字です。海外からの旅行者が増えるという事は、ピンポイントで「日本という国を来たい」と思ってもらえる国に成長したということです。

サービス収支の項目で他に目立っているのは、知的財産権等使用料です。2002年までは赤字でしたが、その後、徐々に黒字額が増えていき2019年は2.24兆円の黒字です。

経済一流、政治は三流

日本はバブルの頃、「経済一流、政治は三流」と言われていました。対外純資産の積み上がり方や収益の多様化を見ると、「こんなに見事に理想通りいくものなのか」と思えるほど見事な足跡です。まさに経済一流ですね。

一方で、国債発行などの政府債務残高は、歯止め無く積み上がっていっています。精神的に、「こんなにじゃぶじゃぶ借金出来るものなのか」と思えるほど見事な精神力です。政治は三流ですらなくなっているかもです。

国際収支統計の暦年の推移の表です。

                                                          国際収支統計(兆円)
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
経常収支 6.43 9.17 14.23 14.66 13.34 10.38 7.49 11.57 14.99 12.97 14.06
貿易収支 10.05 12.93 15.77 15.48 14.73 12.34 9.03 12.37 16.08 14.13 12.69
(輸出) 40.68 41.46 42.08 39.16 39.34 40.25 43.01 48.88 48.28 45.25 48.96
(輸入) 30.63 28.54 26.30 23.68 24.61 27.91 33.98 36.50 32.21 31.17 36.26
サービス収支 -6.71 -6.60 -6.54 -6.27 -5.26
第一次所得収支 6.15 6.87 6.61 6.49 7.69
第二次所得収支 -0.97 -1.07 -1.14 -1.38 -1.05
金融収支 7.27 15.24 13.62 13.08 14.87
直接投資 2.86 2.59 2.21 1.06 3.36
証券投資 3.70 -4.14 5.79 3.00 3.84
金融派生商品 0.80 0.71 -0.10 0.33 0.50
その他投資 -4.04 15.31 6.71 -0.10 1.56
外貨準備(億ドル) 770 689 686 955 1228 1828 2178 2207 2159 2880 3616
資本移転等収支 -0.35 -0.48 -1.93 -1.90 -0.99
対外純資産 44 47 64 68 66 84 103 124 133 84 133

年次経済報告(内閣府)(https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/19.html)、国際収支総括表(財務省)(https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm)を加工して作成。

                                                            国際収支統計(兆円)
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
経常収支 10.45 13.68 16.12 19.69 18.72 20.33 24.94 14.87 13.59 19.38
貿易収支 8.84 12.12 12.46 14.42 11.77 11.07 14.18 5.80 5.38 9.51
(輸出) 46.03 48.90 51.32 57.70 63.00 72.02 80.02 77.61 51.12 64.39
(輸入) 37.18 36.78 38.86 43.28 51.23 60.95 65.83 71.80 45.73 54.87
サービス収支 -5.163 -5.65 -4.10 -4.22 -4.07 -3.72 -4.36 -3.91 -3.26 -2.65
第一次所得収支 8.20 7.81 8.63 10.34 11.85 14.22 16.48 14.34 12.63 13.61
第二次所得収支 -0.96 -0.59 -0.86 -0.85 -0.81 -1.24 -1.35 -1.35 -1.16 -1.09
金融収支 10.56 13.39 13.68 16.09 16.34 16.04 26.37 18.65 15.62 21.70
直接投資 3.70 2.43 2.96 3.57 5.17 7.01 6.02 8.92 5.72 6.25
証券投資 5.62 13.14 11.47 -2.34 1.07 -14.79 -8.25 28.18 19.94 12.70
金融派生商品 -.018 -0.26 -0.60 -0.21 0.80 -0.28 -0.32 -2.45 -0.94 -1.02
その他投資 -3.51 -7.71 -21.67 -2.15 6.84 20.39 24.63 -19.20 -11.62 -0.00
外貨準備(億ドル) 4019 4697 6735 8445 8468 8953 9733 10306 10493 10961
資本移転等収支 -0.34 -0.42 -0.46 -0.51 -0.54 -0.55 -0.47 -0.55 -0.46 -0.43
対外純資産 179 175 172 185 180 215 250 225 268 255

年次経済報告(内閣府)(https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/19.html)、国際収支総括表(財務省)(https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm)を加工して作成。

                                                               国際収支統計(兆円)
11 12 13 14 15 16 17 18 19
経常収支 10.40 4.76 4.45 3.92 16.51 21.39 22.77 19.37 20.11
貿易収支 -0.33 -4.27 -8.77 -10.46 -0.88 5.51 4.95 1.12 0.38
(輸出) 62.96 61.95 67.82 74.07 75.27 69.09 77.25 81.22 76.03
(輸入) 63.29 66.22 76.60 84.54 76.16 63.57 72.34 80.09 75.64
サービス収支 -2.77 -3.81 -3.47 -3.03 -1.93 -1.12 -0.69 -1.02 0.12
第一次所得収支 14.62 13.99 17.69 19.41 21.30 19.14 20.68 21.27 20.98
第二次所得収支 -1.10 -1.14 -0.98 -1.99 -1.96 -2.14 -2.12 -2.00 -1.37
金融収支 12.62 4.19 -0.40 6.27 21.87 28.60 18.81 20.00 24.30
直接投資 9.31 9.35 14.24 12.58 16.13 14.85 17.41 14.77 23.12
証券投資 -13.52 2.44 -26.56 -4.83 16.02 29.64 -5.65 10.05 9.33
金融派生商品 -1.34 0.59 5.55 3.76 2.14 -1.65 3.45 0.12 0.37
その他投資 4.40 -5.14 2.50 -6.13 -13.05 -13.66 0.94 -7.61 -11.33
外貨準備(億ドル) 12958 12681 12668 12605 12332 12169 12642 12709
資本移転等収支 0.02 -0.08 -0.74 -0.20 -0.27 -0.74 -0.28 -0.21 -0.41
対外純資産 265 299 325 363 339 336 328 341

年次経済報告(内閣府)(https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/19.html)、国際収支総括表(財務省)(https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm)を加工して作成。

次回は、中国の政治をわかりやすくです。

 

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中国の政治は、投資家にとって諸刃の剣です。強い政治的なリーダーシップは、経済的には大きなメリットですが、問答無用で変わるルールは、外国企業や投資家にとっては大きなリスクになります。

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日本では黒田バズーカ(異次元金融緩和)、海外では米国のシェール革命がスタートします。2017年、トランプ大統領が誕生します。就任以来これほど目の放せない大統領がいたでしょうか。あれほどパワフルなのに、米国史上最高齢(70才)の大統領なんですね。

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