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投資環境(5)FXと外貨 購買力平価は過去のもの?フローからストックへ

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為替の適正水準とか理論値ってどう考える?

 

FXや外貨投資をしていると、ふと思う事があります。「為替の適正水準とか理論値って、どう考えたら良いんだろう。」という事です。

「通貨は国力に裏打ちされている」と考えれば、国力を基準に、GDPや対外資産、資源の埋蔵量、軍事力などを数値化して通過供給量で割り、比較対象国の通貨と比べれば良い事になりますが、とても現実的とは思えません。株式で言うところの、ブランド力なども含めたBPS(一株当たり純資産)になります。これが計算出来れば、本質的価値という事になり、絶対的な基準になります。しかし、資産が多種多様過ぎて無理っぽいです。価格変動もしますし。

 

物価を基準に考えると、購買力平価という事になります。

購買力平価(PPP)とは

購買力平価には、絶対的購買力平価と相対的購買力平価があります。また、使われる物価指数が、企業物価指数か消費者物価指数かで、結果は大きく違うので確認が必要です。企業物価指数は、卸売物価指数→(製造業物価指数、生産者物価指数)と名称が変わって来ていますが同じ意味です。

絶対的購買力平価とは

物価から見て、2つの通貨の均衡が取れる水準を言います。例えば、オレンジが1つ、日本で110円米国で1ドルだとすると、1ドル=110円が妥当な為替レートではないかという考え方です。すごくもっともな考え方だと思いますが、問題点もあります。

前提となるのは、一物一価の法則で「完全に自由な市場では、同一時点において、同一の商品は同一の価格である」というものです。

まず、1つ目の問題点は、完全に開けた市場などないという事です。日米間どころか、国内だけでも地域や販売元によって価格が違ったりします。茨城円と東京円では価値が違うということになります。

2つ目の問題点は、オレンジや自動車、パソコンなど、何を選ぶかで均衡点は違います。物価指数に組み入れる物の選び方で、結果が変わってしまうという事です。

3つ目の問題点は、物価指数は各国で指数に組み入れる物が違うという事です。例えば、米国で代表的な製造業物価指数・消費者物価指数は、ともに米国労働省労働統計局が算出しており、日本で代表的な企業物価指数(製造業物価指数)は日本銀行が、消費者物価指数は総務省統計局が算出しています。それぞれ組み入れている物は違います。

物価指数については、OECD(経済協力開発機構)が毎月発表している、加盟各国の物価指数が使われる事が多いです。

相対的購買力平価とは

絶対的購買力平価は問題点もありますが、2国間のある時点で見た場合、「この時点では両国の市場が開けており、かなり理想に近い計測が出来たのではないか」と思える時期があります。無ければ、1番理想に近い計測が出来ていると思える時期で考えます。

相対的購買力平価はそこに着目し、「そのかなり理想に近い」と思える年を基準年として、基準年の購買力平価に両国のインフレ率を加味していき、現在の購買力平価を求める方法です。日米間であれば、1973年の265円が基準になる事が多いです。

米ドル/円を例に取ると、

(基準年の翌年の購買力平価)=(基準年の絶対的購買力平価)×(100+日本のインフレ率-米国のインフレ率)

となります。この式に当て嵌めて、現在までの両国のインフレ率を加味していけば、現在の相対的購買力平価が求められます。

なお、意外かも知れませんが、2国の物価指数に組み入れる物が違っていても、相対的購買力は成立するそうです。あくまでも、基準年からのインフレ率を見るため、組み入れている物が違っていても絶対的購買力平価ほど大きな違いにはならないからのようです。

相対的購買力平価の問題点は、基準年を何時にするのかで結果が大きく変わってしまうという事です。

しかし、絶対的購買力平価に比べると問題点も少なく、現在は、相対的購買力平価が主流になっています。

 

購買力平価の小さな問題点

 

購買力平価は、物価を基準にした通貨の均衡点になります。その為、長期の為替レートは、購買力平価に添う形で推移してきています。

しかし、問題点もあります。絶対的購買力平価が良いのか相対的購買力平価が良いのか?使用する物価指数は?基準年は?等々、色々な選択肢があり、色々な購買力平価が存在する事です。誰もが納得する購買力平価は、選び出せないかも知れません。

しかし、ここに落とし穴があります。解説者ならともかく、個人投資家に、誰もが納得出来る購買力平価など必要ないのです。自分が納得出来る購買力平価が必要なのであって、それがあれば、投資判断の基準にもなります。もし、その購買力平価の選択が適正であれば(確認する方法はありませんが)、むしろ、人に知られていない方が有利になります。つまり、自分が納得出来る購買力平価の選び方を整理して置けば良いという事です。

購買力平価の選び方

答えは色々ありそうですが、1番大きな選択肢は、消費者物価指数ベースの購買力平価か企業物価指数ベースの購買力平価かという選択です。

他は些末な問題かと思いますが、その他の選択は、問題の少ない相対的購買力平価で良いと思います。基準年は、比べる両国の物価指数(インフレ率)の基準年が同じになるようにする事と、基準年の為替を取り巻く環境がどんな状況だったか分かると尚良いと思います。

そして、実際の為替レートとの乖離には、各通貨発行国の政治的、経済的な思惑と発言力の差が為替レートに反映されていると思って下さい。「ジャイアンとのび太が取引きをしたら、常にジャイアンに有利なレートになる」と言ったら解りやすいでしょうか。

両国の問題として、貿易収支が取り上げられている時などは、企業物価指数ベースの購買力平価が良いと思います。

旅行者や輸入品など、消費者目線で購買力平価を確認したい時は、消費者物価指数ベースが良いと思います。

各通貨発行国の政治的、経済的な思惑と発言力の差についてですが、通貨の発行国は、自国の利益を考えて為替政策を行います。

貿易をベースに考えた場合、目的は自国の企業の競争力を上げる事なので、自国通貨安を望みます。「インフレ率が高すぎる」などの特殊な要因がある場合は、通貨の暴落を警戒したり、国民が海外から物を買うために、自国通貨高を望む事になります。

米ドル/円で考えてみます。

貿易をベースに考えた場合、特殊なケースを除いて通常は、日本側は円安(ドル高)を、米国側はドル安(円高)を望んでいます。なので、日本政府も米国政府も、その発言力を駆使して、自国通貨安に持っていこうとします。為替介入にならない程度に。

実際の米ドル/円の為替レートは、常に購買力平価よりも米国の望む方向に乖離していました。これが、米国と日本の発言力の差だと思います。

米国と、中国やロシアとの関係が悪化している時などは、日本を味方に付けておきたい事もあり、少し購買力平価との乖離幅が縮小していた気がします。米国の大統領と日本の総理大臣の関係が良好な時も、乖離幅は縮小していたと思います。状況により発言力の強さも変わってきます。

購買力平価の大きな問題点 フローからストックへ

長期的な為替相場の均衡点を探るのであれば、物価を基準にした通貨の均衡点となる購買力平価は適していると思います。しかし、短期的には購買力平価は、以前ほどの存在感は失われてしまっています。

理由は、日本及び世界の経済構造が大きく変わってしまった事にあります。

下の表は国際収支のカテゴリー表です。(ここでの説明にあまり関係の無さそうな項目は省いてあります。)

国際収支(BPM6) 経常収支 貿易・サービス収支 貿易収支
サービス収支
第一次所得収支(旧 所得収支)
第二次所得収支
金融収支 直接投資
証券投資
外貨準備
資本移転等収支

かつての日本は、貿易収支で大きく稼いで、経済大国と言われていました。しかし、今、日本は、金融収支から得られる第一次所得収支で大きく稼いでいます。これにより、日本は昔ほど貿易収支に利益を左右されない経済体質になっています。

  • 貿易収支   物の輸出入の収支。
  • 金融収支   直接投資は海外で工場を建てるなどの投資。証券投資は外国の証券を買うなどの投資。
  • 第一次所得収支   海外資産から得られる利子や配当。

貿易収支の重要性が下がれば、貿易収支の利益の基準となる企業物価指数ベースの購買力平価も、重要性は下がるという事です。

逆に重要性が上がっているのは、金融収支や第一次所得収支に影響を与える事柄です。金利平価説とか、アセット・アプローチ理論などが金融収支や第一次所得収支の利益の基準になります。

今、世界には巨大な投資資金が、運用先を探して待機しています。クラウドファンディングなどというものが成立したり、優れたビジネスモデルを持つ企業が、あっという間に巨大企業になってしまうのもそのためです。

これまでは、為替相場を動かすのは、資産の増減や移動などのフロー(流れるなどの意味)の部分とされて来ましたが、巨大な待機資金(ストック)が影響を与えると考えられるようになって来ました。

そのストックが重視しているのが金利であり、資産の配分(アセット)である事から、金利平価説やアセット・アプローチ理論が重要になって来ました。

この傾向はしばらく続くものと思って良いと思います。持つ者と持たない者の格差は広がって行く、という事ですね。

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次回は、国際収支についてです。

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投資環境(6)国際収支統計の項目の説明

国際収支統計は、国の1年間の外国との経済取引きの統計です。特に抑えておきたい項目は、経常収支、貿易・サービス収支、第一次所得収支(旧 所得収支)、金融収支(旧 投資収支)です。

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投資環境(4)PPIとCPIの違いと規制緩和の影響

製造から出荷までの段階でかかる原料費、人件費や電力、機械などの費用はPPIの上昇率に影響を与えます。出荷から最終消費者に渡るまでの問屋、倉庫、流通、小売店などのコストはCPIの上昇率に影響を与えます。

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